今回は小説「家守綺譚」の紹介です。
関西にある著者「梨木果歩」自身の仕事場が、
モデルとなっている小説です。
個人的には、
もしデジタルや現実的なことから離れて、
静かな旅行やカフェで何か読むとしたら?
という質問に回答するとしたら、
この「家守奇譚」と答えます。
どんな作品?
この小説は28の短編に分かれており、
それぞれの短編のタイトルに、
- ダァリヤ
- ドクダミ
- 南天
- 山椒
等、植物の名前が付けられています。
公式の解説は以下の通り。
それはついこの間、ほんの百年前の物語。サルスベリの木に惚れられたり、飼い犬は河童と懇意になったり、庭のはずれにマリア様がお出ましになったり、散りぎわの桜が暇乞いに来たり。と、いった次第のこれは、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねている新米知識人の「私」と天地自然の「気」たちとの、のびやかな交歓の記録――。
引用ー家守奇譚(新潮社)ー
意味不明でしょうが、
書いてある通りです。
主人公はぱっとしない文筆家の「綿貫征四郎」。
そんな彼の周囲で、
不可思議な出来事が日常的に起こります。
一見、ミステリーやホラーのようですが、
次の展開が気になるようなハラハラドキドキ、
おどろおどろしいホラー的要素、
不思議な出来事の謎解き要素は、
あまりありません。
どのエピソードも、
なんとも言えない
「美しさ」と「かわいらしさ」があり、
文学的な味わい深さを感じる作品です。
この小説がおすすめな方は以下の通り。
時代背景は明治時代後期頃と言われており、
使用されている言葉や文体が少々古風なため、
一般的に流行っている小説と比較して、
読みにくいかと思います。
ただ、好きな人にとっては、この点も、
この小説の魅力の一つだと思います。
引き続き、詳細なおすすめポイントです。
【特徴1】人間、動植物、妖怪、死者が平等に共存する世界
先述のあらすじの通り、作中では、
日常的に不可思議なことが起こります。
主人公の「綿貫征四郎」は、
湖で行方不明となった友人「高堂」の家に
住んでいます。
第一話の「サルスベリ」から、
その行方不明になった「高堂」が、
家の掛軸から現れます。
そして「高堂」は、
サルスベリの木に惚れられた主人公に、
アドバイスをします。
文章で書くと、
最初からまるでぶっとんでいるような話です。
しかし主人公は、行方不明になった「高堂」が、
現れるのは当然かのうように落ち着いており、
サルスベリに惚れられたことも、
当然のように受け入れています。
主人公だけではありません。
ほとんどの登場人物は、
不可思議な出来事に対して、
異様に理解があります。
人間、動物、植物、妖怪、死者・・・
この作品の世界観では、どの種別であっても、
同じ世界に共存する者として、
平等に交流を行います。
私自身、東京に住んでおり、
日常的に自然や動物と触れ合う機会は、
とてもまれです。
ただこの作品を読むと、普段忘れかけている、
- 人間が自然の一部で生活していること
- 人間以外の動物、植物と共存していること
といった感覚を思い出します。
これらの感覚は、
旅行に行ったりすると感じることが多いですが、
旅行に行かずとも、この小説を読むだけで、
似たような感覚を感じることができるます。
【特徴2】味わい深く美しい日本語表現
28ある各話のタイトルは、
植物の名前になっており、
「白木蓮(ハクモクレン)」、
「都わすれ」、「木槿(ムクゲ)」・・・
と、タイトルだけでも綺麗です。
これらタイトルになっている植物が、
各話に多かれ少なかれ登場します。
植物が物語の軸になっている話もあれば、
ほんの少しだけ登場する話もあります。
個人的に好きなのは、「野菊」のエピソードで、
話の最後、普段から主人公が世話になっている、
おかみさんの名前を聞くときの会話です。
「私の名はあれ。」
「野菊—きくさんですか。」
「いえ、ハナです。ありふれた名前です。」
タイトルの「野菊」は、
この会話まで登場せず、
最後のここにだけ登場します。
この一瞬だけ登場する「野菊」の使い方が、
控えめながら綺麗で、
静かで素敵な余韻のようなものを感じます。
また、作品全体にわたって、
作者の豊富なボキャブラリーが、
ふんだんに使われています。
この作品で初めて聞いた言葉も多く、
「おもしろい表現だな・・・」
「こんな言い回しあるのか・・・」
といった、新しい発見も多いです。
(読み進めるのに、
多少時間はかかりますが・・・)
おわりに
紹介は以上となります。
最初に書いたように、静かな環境で、
デジタルデトックスをしたいとき、
旅行に行ったような気分に浸りたいときに、
ぴったりな一冊です。
ちなみに、続編の「冬虫夏草」もあるので、
もし「家守奇譚」が楽しめた方には、
こちらも合わせてお勧めです。
今回は以上となります。
最後までお読みいただき、
ありがとうございました。
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