今回は小説「家守綺譚」の紹介です。
関西にある著者「梨木果歩」自身の仕事場が、
モデルとなっている小説です。
個人的には、
もしデジタルや現実的なことから離れて、
静かな旅行やカフェで何か読むとしたら?
という質問に回答するとしたら、
この「家守奇譚」と答えます。
どんな作品?
この小説は28の短編に分かれており、
それぞれの短編のタイトルに、
- ダァリヤ
- ドクダミ
- 南天
- 山椒
等、植物の名前が付けられています。
公式の解説は以下の通り。
それはついこの間、ほんの百年前の物語。サルスベリの木に惚れられたり、飼い犬は河童と懇意になったり、庭のはずれにマリア様がお出ましになったり、散りぎわの桜が暇乞いに来たり。と、いった次第のこれは、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねている新米知識人の「私」と天地自然の「気」たちとの、のびやかな交歓の記録――。
引用ー家守奇譚(新潮社)ー
意味不明でしょうが、
書いてある通りです。
主人公はぱっとしない文筆家の「綿貫征四郎」。
そんな彼の周囲で、
不可思議な出来事が日常的に起こります。
一見、ミステリーやホラーのようですが、
次の展開が気になるようなハラハラドキドキ、
おどろおどろしいホラー的要素、
不思議な出来事の謎解き要素は、
あまりありません。
どのエピソードも、
なんとも言えない
「美しさ」と「かわいらしさ」があり、
文学的な味わい深さを感じる作品です。
![](https://sevenmaru.com/wp-content/uploads/2022/06/ダリア-1024x683.jpg)
この小説がおすすめな方は以下の通り。
時代背景は明治時代後期頃と言われており、
使用されている言葉や文体が少々古風なため、
一般的に流行っている小説と比較して、
読みにくいかと思います。
ただ、好きな人にとっては、この点も、
この小説の魅力の一つだと思います。
引き続き、詳細なおすすめポイントです。
【特徴1】人間、動植物、妖怪、死者が平等に共存する世界
先述のあらすじの通り、作中では、
日常的に不可思議なことが起こります。
主人公の「綿貫征四郎」は、
湖で行方不明となった友人「高堂」の家に
住んでいます。
第一話の「サルスベリ」から、
その行方不明になった「高堂」が、
家の掛軸から現れます。
そして「高堂」は、
サルスベリの木に惚れられた主人公に、
アドバイスをします。
![](https://sevenmaru.com/wp-content/uploads/2022/06/サルスベリ-1-1024x683.jpg)
文章で書くと、
最初からまるでぶっとんでいるような話です。
しかし主人公は、行方不明になった「高堂」が、
現れるのは当然かのうように落ち着いており、
サルスベリに惚れられたことも、
当然のように受け入れています。
主人公だけではありません。
ほとんどの登場人物は、
不可思議な出来事に対して、
異様に理解があります。
人間、動物、植物、妖怪、死者・・・
この作品の世界観では、どの種別であっても、
同じ世界に共存する者として、
平等に交流を行います。
私自身、東京に住んでおり、
日常的に自然や動物と触れ合う機会は、
とてもまれです。
ただこの作品を読むと、普段忘れかけている、
- 人間が自然の一部で生活していること
- 人間以外の動物、植物と共存していること
といった感覚を思い出します。
これらの感覚は、
旅行に行ったりすると感じることが多いですが、
旅行に行かずとも、この小説を読むだけで、
似たような感覚を感じることができるます。
【特徴2】味わい深く美しい日本語表現
28ある各話のタイトルは、
植物の名前になっており、
「白木蓮(ハクモクレン)」、
「都わすれ」、「木槿(ムクゲ)」・・・
と、タイトルだけでも綺麗です。
これらタイトルになっている植物が、
各話に多かれ少なかれ登場します。
植物が物語の軸になっている話もあれば、
ほんの少しだけ登場する話もあります。
個人的に好きなのは、「野菊」のエピソードで、
話の最後、普段から主人公が世話になっている、
おかみさんの名前を聞くときの会話です。
「私の名はあれ。」
「野菊—きくさんですか。」
「いえ、ハナです。ありふれた名前です。」
タイトルの「野菊」は、
この会話まで登場せず、
最後のここにだけ登場します。
この一瞬だけ登場する「野菊」の使い方が、
控えめながら綺麗で、
静かで素敵な余韻のようなものを感じます。
![](https://sevenmaru.com/wp-content/uploads/2022/06/野菊-1024x683.jpg)
また、作品全体にわたって、
作者の豊富なボキャブラリーが、
ふんだんに使われています。
この作品で初めて聞いた言葉も多く、
「おもしろい表現だな・・・」
「こんな言い回しあるのか・・・」
といった、新しい発見も多いです。
(読み進めるのに、
多少時間はかかりますが・・・)
おわりに
紹介は以上となります。
最初に書いたように、静かな環境で、
デジタルデトックスをしたいとき、
旅行に行ったような気分に浸りたいときに、
ぴったりな一冊です。
ちなみに、続編の「冬虫夏草」もあるので、
もし「家守奇譚」が楽しめた方には、
こちらも合わせてお勧めです。
今回は以上となります。
最後までお読みいただき、
ありがとうございました。
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